腰椎椎間板ヘルニアは自然治癒する?期間と回復のメカニズム

2025.11.20ペインクリニック内科・麻酔科

腰椎椎間板ヘルニアは自然治癒する?

「椎間板ヘルニアになったら手術しか選択肢がない」と思っていませんか?実は、多くの椎間板ヘルニアは自然に治ることをご存知でしょうか。

日本脊椎脊髄病学会が発行した「腰椎椎間板ヘルニア診療ガイドライン」によると、症候性腰椎椎間板ヘルニアの60%以上で画像上の自然退縮が認められることが明らかになっています。

吸収は発症からおよそ2〜3か月で始まり、完全に吸収されるまでには半年から長くて1年ほどかかります。とはいえ、その間は痛みやしびれと向き合いながら過ごす必要があり、日常生活に大きな負担を感じる方も少なくありません。

この記事では、椎間板ヘルニアの自然治癒率、回復までの期間、そして治療法についてお伝えします。手術を検討している方も、まずはこの記事で自然治癒の可能性について理解を深めてみてください。

腰椎椎間板ヘルニアの自然治癒率と回復期間

椎間板ヘルニアは、背骨のクッションである「椎間板」の一部が飛び出して神経を圧迫することで痛みやしびれを引き起こす疾患です。多くの患者さんが「このまま治るのか」と不安を抱えています。

結論から言うと、椎間板ヘルニアの多くは自然に治る可能性があります。

ヘルニアが自然に小さくなる仕組み

飛び出した椎間板は、体内では「異物」として認識されます。すると、免疫細胞がこれを分解・吸収しようと働きかけるのです。この過程を「自然吸収」と呼びます。

自然吸収が始まる時期は個人差がありますが、3ヶ月以内に自然に吸収されることもあります。

全体としては、約1年で症状が軽快するケースが多いとされています。

ヘルニアのタイプ別自然治癒率

ヘルニアは形状によって「膨隆型」「突出型」「脱出型」「遊離型」に分類されます。研究によると、自然退縮率はタイプによって大きく異なります:

  • 遊離型:96%(完全吸収率43%)
  • 脱出型:70%(完全吸収率15%)
  • 突出型:41%(完全吸収率0%)
  • 膨隆型:13%(完全吸収率11%)

腰椎椎間板ヘルニアの症状経過と自然治癒のサイン

椎間板ヘルニアの症状は時間とともに変化します。自然治癒に向かう場合、どのような経過をたどるのでしょうか?

急性期(発症〜2週間)

急性期は最も痛みが強い時期です。腰痛に加え、お尻から足にかけての痛みやしびれが現れることが多いです。くしゃみや咳で腹圧がかかると痛みが増すこともあります。

この時期は安静にして炎症を抑えることが大切です。無理に動くと症状が悪化する可能性があります。

亜急性期(2週間〜3ヶ月)

徐々に痛みが和らぎ始める時期です。ただし、強弱を繰り返すこともあります。この時期から少しずつ体を動かし始めることが回復を早める鍵となります。

長期間の安静は筋力低下を招き、かえって回復を遅らせる可能性があるのです。

回復期(3ヶ月以降)

多くの場合、3ヶ月を過ぎると症状はかなり改善します。日常生活にほとんど支障がなくなる方も多いでしょう。

ただし、完全に元の状態に戻るわけではありません。再発予防のためのケアが重要になります。

自然治癒に向かうサインとしては、痛みの範囲が狭くなる、痛みの強さが弱まる、朝方の痛みが減少するなどが挙げられます。

自然治癒を促進するための保存療法

椎間板ヘルニアの自然治癒を待つ間、どのような治療を行えば良いのでしょうか?保存療法には様々な選択肢があります。

薬物療法

急性期の強い痛みには、消炎鎮痛薬が効果的です。

ただし、薬は対症療法であり、根本的な治療ではありません。長期間の使用には注意が必要です。

リハビリテーション

急性期を過ぎたら、適切な運動療法が回復を早めます。特に体幹を鍛えるエクササイズや、腰や股関節の柔軟性を高めるストレッチが効果的です。

痛みのない範囲で行うことが重要です。無理をすると症状が悪化する可能性があります。


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神経ブロック療法

神経の周囲に局所麻酔薬やステロイド薬を注入することで、痛みを和らげる効果があります。

当院でも多くの患者さんに神経ブロック療法を行っていますが、効果には個人差があります。一時的な痛みの緩和に役立つことが多いですが、根本的な治療ではない点を理解しておくことが大切です。


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手術が必要なケースとは?判断のポイント

椎間板ヘルニアの多くは自然治癒する可能性がありますが、手術が必要なケースもあります。どのような場合に手術を検討すべきでしょうか?

手術を検討すべき症状

以下のような症状がある場合は、手術を検討する必要があります:

  • 筋力低下が進行する場合:足に力が入らない、歩行が困難になるなど
  • 保存療法で改善しない強い痛み:3ヶ月以上の保存療法でも改善しない場合

当院の主なヘルニア手術

当院で主に行っている椎間板ヘルニアの日帰り手術は、「ラジオ波椎間板ヘルニア凝縮術(DISC-FX/DART®)」という低侵襲の治療法です。

皮膚を大きく切開することはなく、約2mmの細いニードルから器具を挿入します。

飛び出した髄核を小さな鉗子で一部摘出し、その後ラジオ波により蒸散・凝縮させることで、神経への圧迫を軽減し、ヘルニアの進行を抑えることができます。

体への負担が少なく、日帰りで受けられるのが大きな特徴です。


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腰椎椎間板ヘルニアとスポーツとの関連性

スポーツ活動と腰椎椎間板ヘルニアの発生に明確な関連性は示されていません。主要なスポーツ(野球、ソフトボール、ゴルフ、水泳、ダイビング、エアロビクス、ラケットスポーツ)の影響を比較した研究では、ヘルニア患者さんと健康な対照群との間にヘルニアの発生率に有意差はありませんでした。

つまり、スポーツをしているからといって特にヘルニアになりやすいわけではないようです。むしろ、適度な運動は背骨の健康維持に役立つ可能性があります。

まとめ:腰椎椎間板ヘルニアと上手に付き合うために

椎間板ヘルニアは決して恐れるべき病気ではありません。60%以上で自然治癒が期待でき、特に脱出型や遊離型のヘルニアは吸収されやすいことがわかっています。

自然治癒を待つ間は、適切な保存療法と生活習慣の改善を心がけましょう。

椎間板ヘルニアの治療は一人ひとり異なります。ご自身の症状について気になる方はいいだメンタルぺインクリニックにお気軽にご相談ください。

著者情報

いいだメンタルペインクリニック

ペインクリニック内科・麻酔科

理事長 飯田 高史

  • 医学博士
  • 麻酔科標榜医
  • 日本専門医機構認定麻酔科専門医
  • 日本麻酔科学会麻酔科認定医
  • 日本ペインクリニック学会専門医


参考文献:
一般社団法人 日本脊椎脊髄病学会_腰椎椎間板ヘルニア診療ガイドライン

腰椎椎間板ヘルニア診療ガイドライン2021のエッセンス:第一部