椎間板ヘルニアの痛みを和らげる正しいストレッチ法

2025.10.28ペインクリニック内科・麻酔科

椎間板ヘルニアとストレッチの関係性

腰の痛みやしびれに悩まされている方の中には、「ストレッチで改善しよう」と考える方も多いのではないでしょうか。特に椎間板ヘルニアと診断された場合、どのようなケアが効果的なのか迷われることでしょう。

実は、椎間板ヘルニアの場合、一般的な腰痛とは異なり、間違ったストレッチは症状を悪化させる可能性があるのです。腰の痛みを和らげようと始めたストレッチが、かえって痛みを強くしてしまうケースも少なくありません。

なぜ腰の問題なのに足にしびれが出るのか?

椎間板ヘルニアの特徴的な症状は、腰痛だけでなく「足のしびれや痛み」です。これは飛び出した椎間板が、足へ伸びる神経(坐骨神経)の根本である神経根という部分を圧迫するためです。

腰椎の中を通る神経は、お尻から足先まで伸びています。そのため、腰で神経が圧迫されると、足にまでしびれや痛みが広がるのです。これが「坐骨神経痛」と呼ばれる症状です。

このように、椎間板ヘルニアは単なる「腰の問題」ではなく「神経の問題」でもあります。だからこそ、神経への圧迫を悪化させるようなストレッチは避けるべきなのです。

椎間板ヘルニアの痛みを和らげる7つのストレッチ

椎間板ヘルニアの症状を和らげるためには、適切なストレッチが効果的です。ただし、痛みが強い急性期には安静が基本となります。痛みが落ち着いてきた回復期に、以下のストレッチを取り入れてみましょう。

これから紹介するストレッチは、お風呂上がりや体が温まっているときに行うと効果的です。無理はせず、痛みが出ない範囲で行うことが大切です。

1. 股関節ストレッチ

腰椎への負担を軽減するためには、股関節の柔軟性を高めることが重要です。股関節が硬くなると、その分腰に負担がかかってしまいます。

あお向けに寝て、右足を両手で抱え、できる限り胸に近づけます。この状態を30秒キープしたら、左足も同様に行います。股関節を深く曲げると腰椎も連動して動くため、痛みが出ない範囲で行いましょう。

2. ハムストリングスのストレッチ

太ももの裏側のハムストリングスが固くなると、股関節や骨盤がスムーズに動かなくなり、腰椎に負担がかかりやすくなります。

あお向けに寝て、膝をできるだけ伸ばした状態で右足を抱えてお腹に近づけます。太ももの裏が伸びるのを感じた状態で30秒キープし、左足も同様に行います。

足を抱えにくいときは、バスタオルを足の裏に引っ掛けて行うとストレッチしやすいです。無理に伸ばそうとせず、心地よく伸びる感覚を大切にしましょう。

3. 背骨を反らすストレッチ

背骨全体をスムーズに動かすためには、背中をゆっくり反らすストレッチが効果的です。

うつ伏せに寝て、両手をつけて身体をゆっくり起こします。首、背中、腰と順番に反るようなイメージで、できる限り反らした状態を30秒キープします。

痛みの出ない範囲でゆっくりとストレッチすることが大切です。無理に反りすぎると逆効果になることもあるので注意しましょう。

4. 背骨をひねるストレッチ

背骨は曲げ伸ばしだけでなく、回旋する動きも必要です。背骨をスムーズに回旋するためのストレッチを行いましょう。

あお向けに寝て両膝を立て、両膝をゆっくり右に倒します。倒しきった状態で30秒キープしたら、左も同様に行います。

勢いよく倒すと腰に負担がかかるので、ゆっくり行うのがポイントです。呼吸を止めずに、リラックスした状態で行いましょう。

5. 胸椎のストレッチ

胸椎の動きが制限されると、その分腰椎の負担が増え、ストレスがかかります。胸椎の柔軟性を高めるストレッチも重要です。

四つん這いになり、片方の手を反対側の脇の下に通し、胸を床に近づけるようにします。この状態を30秒キープしたら、反対側も同様に行います。

胸椎が柔らかくなることで、腰椎への負担が分散され、痛みの軽減につながります。

6. 腹式呼吸トレーニング

腹式呼吸は、体幹の安定化に役立ちます。腰椎椎間板ヘルニアの症状改善には、腰周りの筋肉をバランスよく使うことが重要です。

膝を立てて仰向けに寝て、腰骨のやや内側のお腹に手を当てます。ゆっくり口から息を吐きながら、お腹を凹ませるように力を入れていきます。

1回10秒程度で、4〜5回を目安に連続して行いましょう。腹式呼吸を意識することで、インナーマッスルが鍛えられ、腰椎の安定性が高まります。

7. 下向きブリッジ

体幹の筋力を強化するために、下向きブリッジも効果的です。

手と膝を床について四つん這いになります。背中が反らないように注意しながら、片方の腕を床に水平になるように前に持ち上げて、10秒保持します。4〜5回を目安に行いましょう。

慣れてきたら、腕と逆の足も同時に持ち上げた状態を保持してみましょう。これにより、さらに体幹の安定性が高まります。

椎間板ヘルニアに逆効果なストレッチとは?

椎間板ヘルニアの方が避けるべきストレッチには、いくつかの共通点があります。これらは一般的な腰痛改善のストレッチとして紹介されることもありますが、ヘルニアの場合は注意が必要です。

1. 前屈を強調するストレッチ

腰を丸めて前に倒れる動きは、椎間板に大きな圧力をかけます。立った状態での前屈や、座った状態で膝に手を伸ばすようなストレッチは、椎間板を後方に押し出す力が働き、神経圧迫を悪化させる可能性があります。

特に「両膝抱え込み」のポーズは、腰椎が過度に屈曲し、ヘルニアを悪化させるリスクがあります。

2. 反り腰を強調するストレッチ

腰を大きく反らすポーズも危険です。ヨガのコブラポーズやアップドッグなど、腰を強く反らすストレッチは、椎間板の後方に大きな圧力をかけます。

飛び出した髄核がさらに後ろに押し出され、神経圧迫を悪化させる恐れがあります。特に痛みがある時期には避けるべきでしょう。

3. 背骨を強くねじるストレッチ

背骨を強くねじる動きも椎間板ヘルニアには危険です。腰を左右にひねるストレッチは、繊維輪に負担をかけ、すでに弱っている部分をさらに損傷させる可能性があります。

特に立った状態での強いひねりや、勢いをつけたひねりは避けるべきです。

これらのストレッチは一般的な柔軟性向上には効果的かもしれませんが、椎間板ヘルニアの方には逆効果になることがあります。痛みが出たり、足のしびれが強くなったりした場合は、すぐに中止しましょう。

椎間板ヘルニアの痛みを和らげるための日常生活の注意点

ストレッチだけでなく、日常生活での注意点も椎間板ヘルニアの症状改善に重要です。

まず、正しい姿勢を意識することが大切です。立っているときは背筋を伸ばし、お腹に力を入れるようにしましょう。座っているときは深く腰掛け、背もたれを使うようにします。猫背にならないように注意し、長時間同じ姿勢を続けないことも重要です。

椎間板ヘルニアは再発しやすい病気です。再発予防のためにも、日常的に正しい姿勢を心がけましょう。

重いものを持ち上げるときは、膝を曲げてしゃがみ、腰ではなく脚の力を使って持ち上げるようにしましょう。急に体をひねる動作も避けるべきです。

また、適度な運動も大切です。運動不足は筋肉が弱り、血行が悪化するため、痛みが長引く原因になります。ウォーキングや水泳など、腰に負担の少ない有酸素運動がおすすめです。

体重管理も重要なポイントです。過剰な体重は腰への負担を増やします。バランスの良い食事と適度な運動で、健康的な体重を維持しましょう。

喫煙は椎間板ヘルニアの発症リスクを高めるとされています。禁煙も症状改善に役立つかもしれません。
関連記事:椎間板ヘルニアでやってはいけない7つの行動と対処法

まとめ:椎間板ヘルニアの正しい回復への道筋

椎間板ヘルニアの回復には、間違ったストレッチを避け、適切なアプローチを選ぶことが重要です。

  • 日常生活が送れないほどの強い痛みがある
  • 足に力が入らず、歩行が困難になっている
  • 排尿・排便のコントロールが困難になっている
  • 痛みやしびれが徐々に悪化している
  • 安静にしていても痛みが続く

これらの症状に当てはまる方は、早急な治療が必要な場合があります。

痛みやしびれで日常生活に支障がある場合は、ぜひ専門医に相談してください。いいだメンタルペインクリニックでは、椎間板ヘルニアをはじめとする腰痛や神経痛に対して、最新の医学的知見に基づいた総合的なアプローチを提供しています。

著者情報

いいだメンタルペインクリニック

ペインクリニック内科・麻酔科

理事長 飯田 高史

  • 医学博士
  • 麻酔科標榜医
  • 日本専門医機構認定麻酔科専門医
  • 日本麻酔科学会麻酔科認定医
  • 日本ペインクリニック学会専門医