睡眠時無呼吸とうつ病の症状~見逃せない関連性と対処法
2025.12.04精神科・心療内科

睡眠時無呼吸とうつ病の関連性
夜間のいびきや日中の強い眠気に悩まされていませんか?それは単なる睡眠の質の問題ではなく、睡眠時無呼吸(OSA)の可能性があります。さらに、気分の落ち込みや意欲の低下を感じるなら、うつ病との関連も疑う必要があるかもしれません。
実は、睡眠時無呼吸とうつ病には密接な関連があることが、近年の研究で明らかになってきました。両者は互いに影響し合い、一方が他方を悪化させる「悪循環」を生み出すことがあるのです。
この記事では、睡眠時無呼吸とうつ病の関連性について、医学研究に基づいた情報をお伝えします。見逃されがちな症状や効果的な治療法、そして生活の質を向上させるための具体的なアプローチについても解説します。
睡眠時無呼吸の基本と見逃せない症状
睡眠時無呼吸は、睡眠中に繰り返し呼吸が止まったり浅くなったりする状態です。日本では成人男性の約3~7%、女性の約2~5%に見られ、推定200万人の患者がいるとされています。しかし、治療を受けているのはわずか15万人程度と言われており、多くの「隠れ睡眠時無呼吸」の方が存在します。
睡眠時無呼吸の主な症状には、大きないびき、日中の強い眠気、集中力の低下、起床時の頭痛、熟眠感の欠如などがあります。これらの症状は一見するとうつ病の症状と似ていることが、両者の診断を複雑にしている要因の一つです。
睡眠時無呼吸は主に以下の3つのタイプに分類されます:
- 閉塞性睡眠時無呼吸:最も一般的なタイプで、睡眠中に上気道が狭くなったり塞がったりすることで発生します。肥満の方や顎が小さい方に多く見られます。
- 中枢性睡眠時無呼吸:脳から呼吸筋への指令が正常に機能しないことで発生します。
- 混合型睡眠時無呼吸:閉塞性と中枢性の両方の特徴を持つタイプです。
専門的には、10秒以上呼吸が止まった状態を無呼吸と呼び、睡眠中の1時間に平均5回以上無呼吸が見られると睡眠時無呼吸と診断されます。
うつ病と睡眠時無呼吸の密接な関係
うつ病と睡眠時無呼吸の関連性は、単なる偶然ではありません。研究によれば、睡眠時無呼吸の患者さんは、そうでない方と比較してうつ病を発症するリスクが約2倍高いことが分かっています。
睡眠時無呼吸のうつ病発症の他の要因(年齢や体質など)を補正したうえで、発症する確率が約1.8倍高かったが、その他の研究では2.18倍と報告されており、両者の間に密接な関係があることが示唆されています。
睡眠時無呼吸がうつ病を引き起こすメカニズム
睡眠時無呼吸がうつ病の発症や悪化にどのように影響するのでしょうか。そのメカニズムはいくつか考えられています:
- 睡眠の分断化:無呼吸による頻回な覚醒反応が睡眠を分断し、質の低下を招きます。
- 低酸素血症:繰り返される呼吸停止による酸素不足が脳機能に影響を与えます。
- 炎症性サイトカイン:低酸素状態が体内の炎症反応を促進し、うつ病との関連が指摘されています。
- 神経伝達物質の変化:セロトニンやノルアドレナリン、GABAなどの神経伝達物質のバランスが乱れます。
これらの要因が複合的に作用し、うつ症状を引き起こすと考えられています。特に注目すべきは、睡眠時無呼吸による睡眠の質の低下が、うつ病の主要な症状である気分の落ち込みや意欲の低下に直接影響する点です。
うつ病が睡眠時無呼吸を悪化させる可能性
一方で、うつ病も睡眠時無呼吸のリスクを高める可能性があります。
うつ病患者さんは以下の理由から睡眠時無呼吸を発症しやすいと考えられています:
- 体重増加:うつ病による活動量の低下や食習慣の変化が肥満につながり、睡眠時無呼吸のリスクを高めます。
- 筋緊張の低下:うつ病ではセロトニン機能の低下により頸部の筋肉の緊張も低下し、気道が塞がりやすくなります。
- 薬物治療の影響:抗うつ薬や睡眠薬の一部には、筋弛緩作用があり、上気道の閉塞を促進する可能性があります。
このように、うつ病と睡眠時無呼吸は互いに影響し合い、悪循環を形成することがあるのです。
CPAP治療がうつ症状を改善する可能性
睡眠時無呼吸の標準的な治療法であるCPAP(持続陽圧呼吸)療法は、うつ症状の改善にも効果があることが研究で示されています。CPAPとは、マスクを通じて気道に一定の圧力をかけ、呼吸が止まるのを防ぐ治療法です。
CPAP治療を1年間継続した閉塞性睡眠時無呼吸患者さんでは、気分、不安、および特定の認知領域が改善することが示されています。特に注目すべきは、抑うつ症状と不安症状がCPAP治療開始後2ヶ月で有意に減少し、1年後も安定した低いレベルを維持していたという点です。
CPAP治療がうつ症状を改善するメカニズム
CPAP治療がうつ症状を改善するメカニズムとしては、以下のような要因が考えられます:
- 睡眠の質の向上:無呼吸による覚醒反応が減少し、深い睡眠が増加します。
- 低酸素状態の改善:脳への酸素供給が安定し、脳機能が改善します。
- 炎症反応の軽減:低酸素状態の改善により、炎症性サイトカインの産生が減少します。
- 日中の活動性向上:睡眠の質が改善することで、日中の眠気が減少し、活動性が向上します。
CPAP治療による改善効果
- 抑うつ症状の有意な減少(BDI-IIスコアの改善)
- 不安症状の軽減(BAIスコアの改善)
- 注意力テスト(d2テスト)の総合パフォーマンス向上
- 実行機能(Trail Making Test パートB)の改善
- 言語流暢性の向上
CPAP治療が単に睡眠の質を改善するだけでなく、うつ症状や認知機能にも好ましい影響を与えることを示しています。特に、うつ病と睡眠時無呼吸を併発している患者さんにとって、CPAP治療は両方の症状を改善する可能性がある重要な治療法と言えるでしょう。
関連記事: CPAP治療とは?治療の流れや費用を解説
睡眠時無呼吸とうつ病の包括的治療アプローチ
いいだメンタルペインクリニックでは、睡眠時無呼吸とうつ病を併発している方に対して、いずれか一方だけに偏らない包括的な治療を重視しています。睡眠障害とうつ症状は密接に関連しており、どちらか片方のみの治療では改善が十分でないケースが少なくありません。そこで当院では、精神科的視点と睡眠医学の双方から統合的に評価し、治療方針を設計します。
うつ症状を訴える患者さんへの睡眠時無呼吸治療
睡眠状況・いびき・日中の眠気などを問診
睡眠時無呼吸のリスク評価
睡眠ポリグラフ検査を実施し重症度を明確に診断
睡眠時無呼吸が確認された場合、CPAP療法が第一選択となります。
| 取り組み項目 | 目的・内容 | 当院の特徴(精神科医が関与するメリット) |
|---|---|---|
| ① 正確な評価と診断 | 睡眠時無呼吸とうつ病を両面から総合評価し、見落としを防ぐ。 | 精神症状の背景に「睡眠呼吸障害が隠れていないか」を専門的にチェック。 |
| ② 適切な治療選択 | 重症度に応じて最適な治療(CPAP など)を選択し、継続しやすい方法を提案。 | 精神面の状態も加味し、治療継続を妨げないプラン設計が可能。 |
| ③ うつ症状への心理介入 | 認知行動療法などによる心理サポートで、不安・悲観思考を改善。 | 治療継続を妨げる心理的要因にもアプローチできる。 |
| ④ 薬物療法の調整 | 必要に応じて抗うつ薬・抗不安薬などを調整。 | 睡眠時無呼吸を悪化させる薬剤(例:ベンゾ系)を避けた安全な処方が可能。 |
| ⑤ 生活習慣の改善支援 | 体重管理・運動習慣・睡眠衛生などをサポート。 | メンタル不調による生活リズムの乱れも同時に是正でき、治療効果が高まりやすい。 |
※ベンゾジアゼピン系の睡眠薬は上気道筋の緊張を低下させ、無呼吸を悪化させる可能性があります。そのため、当院では CPAP療法を受ける患者さんに対し、精神科医が薬物療法を慎重に調整しています。
まとめ:睡眠時無呼吸とうつ病の関連性を理解する重要性
睡眠時無呼吸とうつ病は密接に関連しており、互いに影響し合う関係にあります。睡眠時無呼吸はうつ病発症のリスクを約2倍に高め、うつ病も睡眠時無呼吸を悪化させる可能性があります。
CPAP療法は睡眠時無呼吸の治療として効果的であるだけでなく、うつ症状の改善にも役立つことが研究で示されています。治療開始後2ヶ月で抑うつ症状と不安症状が有意に減少し、1年後も安定した低いレベルを維持することが確認されています。
睡眠の問題とメンタルヘルスは密接に関連しています。どちらかに問題を感じたら、一度いいだメンタルペインクリニックにご相談ください。
参考文献: 閉塞性睡眠時無呼吸症におけるCPAP治療1年後の認知機能、抑うつ症状および不安症状
著者情報
いいだメンタルペインクリニック
精神科・心療内科
副院長 安田 麻美
- 精神保健指定医
- 日本精神神経学会専門医・指導医
- 日本睡眠学会総合専門医
- 日本老年精神医学会専門医・指導医
- 日本医師会認定産業医
- 日本医師会認定健康スポーツ医
- 北海道女性医師の会 理事