頸椎椎間板ヘルニアの初期症状7つ|放置すると危険な兆候
2025.11.23ペインクリニック内科・麻酔科

頸椎椎間板ヘルニアとは?初期症状を見極めるポイント
「ヘルニア」というと、一般的には腰椎椎間板ヘルニア(腰のヘルニア)を思い浮かべる方が多いかもしれません。しかし、ヘルニアは腰だけでなく首(頚椎)にも生じることがあります。
これが「頚椎椎間板ヘルニア」です。
頚椎椎間板ヘルニアは、首の骨(頚椎)の間にあるクッションの役割をする椎間板が、本来の場所から飛び出して神経を圧迫する疾患です。椎間板は年齢とともに水分が抜けて脆くなり、ヘルニアとして突出してきます。
日常生活での不良姿勢やデスクワーク、スマートフォンの長時間使用による「ストレートネック」いわゆる「スマホ首」の原因となることも多く、近年急増しているとされています。
頚椎椎間板ヘルニアを早期発見するためには、初期症状を正しく理解することが重要です。見落としがちな初期症状を知っておくことで、重症化する前に適切な治療を受けることができます。
頸椎椎間板ヘルニアの初期症状7つ
頚椎椎間板ヘルニアの初期症状は見逃されやすいものです。以下の7つの症状に心当たりがある場合は注意が必要です。
1. 首の痛み
首の後ろ側が痛くなる症状は、頚椎椎間板ヘルニアの最初期に現れることが多いです。顕著な場合は肩甲骨あたりまで痛みが広がることもあります。
特徴的なのは、左右に首を捻ったときだけ痛みを感じたり、寝違えたような痛みが突発的に現れることです。
2. 片方の腕や手の痛み・痺れ
片方の肩から腕、手にかけての痛みや痺れは、「神経根の圧迫」が起こっている典型的な症状です。神経根とは脊髄から体の各部位に伸びる神経の付け根のことで、椎間板組織が斜め後ろに飛び出すことで圧迫されます。
この症状は「電気が走るような」「ビリッとした」痛みとして表現されることが多く、時に激痛となり日常生活が困難になるケースもあります。症状は圧迫された側のみに起こるため、左右どちらか一方だけが痛んだり痺れたりするのが特徴です。
3. 両手の痺れ・感覚障害
片手ではなく両手が痺れる場合は、ヘルニアによる「脊髄」のダメージが起こっている可能性があります。脊髄は椎体(背骨)の真後ろを走っており、椎間板の組織が後方へ飛び出すことで圧迫されます。
脊髄の圧迫による症状は指先から始まり、徐々に範囲が広がっていくことが多いです。神経根の圧迫と異なり、強い痛みはあまり感じませんが、「なんとなく痺れた感じがする」という軽微な症状が、実は脊髄圧迫の重要なサインかもしれません。
4. 首や肩の可動域の低下
首を上下左右に動かしづらくなる、肩が思うように回せないといった症状も初期に現れることがあります。これは椎間板の変性や周囲の筋肉の緊張によって引き起こされます。放置すると、さらに可動域が狭まり、日常生活に支障をきたすようになります。
5. 手の巧緻性運動障害
手の「巧緻(こうち)性運動障害」とは、細かく指を使う動作が難しくなる症状です。箸を使う、ボタンをかける、文字を書くなど、これまで当たり前にできていた細かい作業ができなくなります。
朝、シャツのボタンをかけるのに時間がかかるようになった、字を書くときに思うように指が動かない、といった変化に気づいたら要注意です。脊髄の圧迫が進行している可能性があります。
6. 頭痛やめまい
後頭部から首にかけての痛みや、めまい、耳鳴りといった症状も頚椎椎間板ヘルニアの初期症状として現れることがあります。これらは頚椎の変化によって血管が圧迫され、椎骨脳底動脈の循環不全を引き起こすことで生じます。
特に首を動かしたときに頭痛やめまいが増強する場合は、頚椎椎間板ヘルニアを疑うべきサインかもしれません。
7. 下肢のわずかな痺れや違和感
初期段階では、下半身にもわずかな痺れや感覚の鈍麻が現れることがあります。多くの場合、上肢の症状に比べると軽微であるため見過ごされがちですが、脊髄圧迫の重要なサインとなることがあります。
足の裏や足先にピリピリとした違和感を感じたり、歩行時にわずかな違和感を覚えたりする場合は、他の症状と併せて医師に相談することをおすすめします。
頸椎椎間板ヘルニアの症状レベル4段階
頚椎椎間板ヘルニアの症状は、進行度によって4つの段階に分けられます。初期症状を見逃さず、早期治療につなげることが重要です。
初期|首や肩の違和感
初期段階では、軽微な首や肩の痛み、手や下肢のわずかな痺れや感覚の鈍麻といった症状が現れます。この段階では症状が軽いため、多くの方が診察や治療の必要性を感じず、対応が遅れがちです。
しかし、この段階で適切な処置を受けることで、症状の悪化を防ぎ、回復も早くなります。首や肩に違和感を感じたら、早めに医師の診察を受けることをおすすめします。
発症期|鈍痛と痺れの併発
発症期に入ると、首や肩の痛み、手足の痺れなどが強まります。痛みはいわゆる鈍痛となり、各部位も動かしにくくなります。日常生活や仕事に支障をきたすレベルになってくるため、この段階で医療機関を受診する方が多いでしょう。
運動の困難も一部見られ、箸を使う、ボタンを止めるといった動作がやや難しくなります。
中期|首や肩の可動域の低下
中期になると、明らかな鈍痛や痺れとともに、首や肩の可動域が低下したのを感じるようになります。今までどおり首を上下に動かせない、肩が回せないなどの症状があらわれます。
また手指がうまく使えなくなり、コップなどが持てない、手すりをつかめないなどの症状も起こりうるでしょう。頭痛が伴うケースもあります。
末期|耳鳴りやふらつきなどの重大な症状
末期になると、症状は頭部や下半身に広がります。眼精疲労やめまい、耳鳴り、ふらつきなどの症状が生じ、日常生活に大きな支障が出ます。
痛みの悪化もひどく、手足だけでなく胸や背中に強い鈍痛が生じることも。下半身では歩行障害が生じ、さらに尿失禁なども起こります。この段階では入院や手術による大掛かりな治療が必要です。
初期段階で頸椎椎間板ヘルニアを放置した際のリスク
頚椎椎間板ヘルニアを放置すると、症状が進行し、さまざまな合併症を引き起こす可能性があります。特に脊髄圧迫の症状が進行すると厄介です。
手の巧緻性運動障害の悪化
進行していくと、まず手の「巧緻性運動障害」が悪化します。細かく指を使う動作がさらに難しくなり、箸を使う・ボタンをかける・文字を書くなどの当たり前にできていたことが全くできなくなるのです。
これは日常生活の質を大きく低下させる要因となります。食事や着替えなど、基本的な生活動作にも支障をきたすようになります。
歩行障害の発生
続いて、足の運動障害により歩行が難しくなります。最初はわずかなふらつきから始まり、徐々に歩行そのものが困難になっていきます。
外出が億劫になり、社会活動の制限につながることも少なくありません。転倒リスクも高まるため、二次的な外傷の危険性も増します。
排尿障害の発生
さらに進行すると排尿のコントロールに重要な神経の障害が起こり、頻尿・残尿感・失禁などを認めることもあります。これらの症状は生活の質を著しく低下させるだけでなく、精神的な負担も大きくなります。
このように、頚椎椎間板ヘルニアは初期症状のうちに適切な治療を受けることが非常に重要です。症状に心当たりがある方は、早めに専門医に相談することをおすすめします。
頸椎椎間板ヘルニアの治療法
頚椎椎間板ヘルニアの治療法は、症状の程度によって異なります。初期の症状のうちは保存療法が基本となります。
保存療法
最も重要なのは首の安静を保つことです。特に後屈動作、つまり顎を上げる動作は症状悪化の原因になるため注意が必要です。
なるべく首を動かさないように、頚椎カラーの使用を指示されることもあります。痛みが強いときは鎮痛薬の内服や神経ブロック療法などが選択肢となります。
関連記事:ヘルニアの痛みを緩和する神経ブロック療法の効果とは?
手術療法
一方、保存療法を試したが、症状が改善されない場合は手術が選択肢となります。
当院では「ラジオ波椎間板ヘルニア凝縮術(DISC-FX/DART®)」という小さな穴から椎間板ヘルニアを摘出する低侵襲手術を主に行っております。治療後はそのままおかえりいただけ、治療時間も20〜30分で終了します。
関連記事:椎間板ヘルニアの日帰り手術5つのメリット
日常生活での予防と対策
頚椎椎間板ヘルニアは日常生活での予防が非常に重要です。特に避けるべき「3大悪条件」を知り、生活から取り除くことが大切です。
不良姿勢を避ける
スマホを長時間覗き込む姿勢は首に大きな負担をかけます。うつむくと2〜3倍の頭の重さが首にかかるため、なるべく目線の高さで使用するよう心がけましょう。
また、上を見上げる姿勢も良くありません。電球の取り換えや植木の剪定など、長時間上を向いたり首を斜めに傾けたりする作業も症状を悪化させる原因になります。
冷えに注意する
冷えは頚椎椎間板ヘルニアの大敵です。冬場はもちろん、夏場もクーラーや扇風機の風が直接当たって冷えすぎると、症状が悪化しやすくなります。
首周りを適切に保温し、冷えから守ることを意識しましょう。特に夏場はクーラーの設定温度や風向きに注意が必要です。
首に負担がかかる活動を控える
重いものを持ち上げる作業や激しいスポーツは首に大きな負担をかけます。特にラグビーやアメフトなどの激しいスポーツ、頭を床につけて回るような激しいダンスは要注意です。
また、ヨガの逆立ちのポーズも危険です。頭に軸圧がかかり、椎間板ヘルニアをさらに悪化させる可能性があります。
自分の体に合った高さの枕を使うことも重要です。柔らかい羽毛の枕やウレタン低反発の凹凸枕は、寝ている間に首の姿勢が悪くなりやすいため避けましょう。硬くてしっかりした平らな形の枕で、首がグラつかないように安定させることが大切です。
まとめ:頸椎椎間板ヘルニアの初期症状を見逃さないために
頚椎椎間板ヘルニアはときに自然治癒することもある疾患です。しかしながら、人によっては急激に悪化し、麻痺などの重い神経症状を認めることもあります。
一度重症化してしまうと手術を行わなければならないこともあり、早期に診断して適切な治療を行うことが望ましいです。「首の痛み」「片方の腕や手の痛み・痺れ」「両手の痺れ・感覚障害」などの初期症状があれば、早めに病院を受診しましょう。
また、日常生活では姿勢に気をつけ、長時間同じ姿勢でのデスクワークを避け、適度な休憩と首のストレッチを心がけることが予防につながります。重いものを持ち上げる、首を大きくひねる、長時間同じ姿勢を取るといった行動は避けるべきです。頚椎椎間板ヘルニアでお悩みの方は、いいだメンタルペインクリニックまでご相談ください。
著者情報
いいだメンタルペインクリニック
ペインクリニック内科・麻酔科
理事長 飯田 高史
- 医学博士
- 麻酔科標榜医
- 日本専門医機構認定麻酔科専門医
- 日本麻酔科学会麻酔科認定医
- 日本ペインクリニック学会専門医