不眠症の7つの原因と自宅でできる改善法
2025.11.11精神科・心療内科

不眠症とは?現代人を悩ませる睡眠の問題
不眠症は「眠る機会や環境が適切であるにも関わらず、眠れない症状が1か月以上続き、日中のパフォーマンスが低下した状態」と定義されています。単に「夜眠れない」という苦痛だけでなく、日中の眠気やだるさ、集中力低下など、私たちの生活の質を大きく低下させる問題です。
まずは不眠症の3つのタイプを理解しましょう。
- 入眠障害:ベッドに入ってから寝付くまでに30分以上かかる
- 中途覚醒:夜中に何度も目が覚め、再び眠りにつくのが難しい
- 早朝覚醒:予定より2時間以上早く目が覚めてしまい、その後眠れない
不眠症の原因とそのメカニズム
不眠症の原因は複数の要因が複雑に絡み合っていることが多いのです。
1. ストレスと精神的要因
現代社会において、ストレスは不眠症の最も一般的な原因です。仕事や家庭の問題、人間関係のトラブルなど、日常的なストレスが脳を過度に活性化させ、寝つきを悪くします。
ストレスを感じると、体内ではコルチゾールというホルモンが分泌され、交感神経が優位になり、リラックスして眠ることが難しくなります。
2. 生活習慣の問題
不規則な睡眠スケジュール、夜更かし、昼寝は、体内時計(サーカディアンリズム)を乱します。交代制勤務や時差のある海外旅行も注意が必要です。
私たちの体は太陽の光を基準に活動と休息のリズムを調整しています。このリズムが乱れると、睡眠ホルモンであるメラトニンの分泌タイミングも狂い、不眠につながるのです。
3. 不適切な睡眠環境
寝室の環境も睡眠の質に大きく影響します。騒音、明るすぎる照明、不快な温度や湿度、不快な寝具など、外的要因が睡眠を妨げることがあります。
特に日本の住宅事情では、隣家や道路からの騒音が問題になることが少なくありません。
4. 薬物・アルコール・カフェイン
カフェインは覚醒作用があり、摂取後8時間程度は体内に残ります。夕方以降のコーヒーやお茶、エナジードリンクは要注意です。
アルコールには睡眠の後半で覚醒作用を示し、
無呼吸も誘発するため、睡眠の質を低下させます。いわゆる「寝酒」は不眠を悪化させてしまいます。
また、一部の薬剤にも不眠の副作用があることがあるので気になる場合は主治医に相談しましょう。
5. 睡眠関連疾患や身体的疾患
様々な身体疾患が不眠の原因となることがあります。特に注意すべきなのは以下の疾患です。
- 睡眠時無呼吸:睡眠中の呼吸が不十分な状態で、熟睡感の欠如や日中の強い眠気を引き起こします
- 慢性痛:腰痛や関節痛などの慢性的な痛みは、入眠を妨げたり、夜間に目を覚ます原因になります
- 頻尿:前立腺肥大や過活動膀胱などによる夜間頻尿は、睡眠の分断を引き起こします
当院の睡眠外来では、睡眠時無呼吸に対するCPAP治療(経鼻的持続陽圧呼吸療法)を行っています。鼻マスクから空気を送り込むことで気道を確保し、無呼吸やいびきを軽減する治療法です。
関連記事: 睡眠時無呼吸の治療法「CPAP」とは?
6. 精神疾患
うつ病や不安障害などの精神疾患では、不眠が主要な症状として現れることがよくあります。実際、不眠を主訴に来院される患者さんの中には、基礎疾患としてうつ病が隠れていることも少なくありません。
これらの場合、不眠だけでなく基礎疾患そのものの治療が必要になります。
7. 加齢による変化
年齢を重ねるにつれて、睡眠の構造は変化します。高齢になると深睡眠の割合が減少し、浅い睡眠が増えるため、中途覚醒が増えやすくなります。
また、体内時計のリズムも前にずれやすくなり、早寝早起きの傾向が強まります。これは自然な変化ですが、極端な場合は治療が必要なこともあります。
自宅でできる不眠改善法
不眠症の改善には、まず「非薬物療法」が基本です。生活習慣や睡眠環境を整えることで、多くの場合は改善が認められます。
1. 睡眠衛生指導の実践
睡眠衛生とは、良質な睡眠を得るための生活習慣のことです。具体的には以下のポイントを意識しましょう。
- 毎日同じ時間に起床・就寝する
- 昼寝はしない(どうしてもする場合は15分程度まで)
- 寝室は睡眠のためだけに使用し、仕事や食事などには使わない
- 寝室は暗く、静かで、快適な温度(夏は26℃前後、冬は18℃前後)に保つ
- 就寝前のカフェイン・アルコール・喫煙を避ける
- 就寝1時間前頃に温浴をする
- 日中に適度な運動をする(ただし就寝直前の激しい運動は避ける)
これらの基本的なルールを守るだけでも、睡眠の質は大きく改善することがあります。
2. リラクゼーション法の活用
入眠前のリラクゼーションは、交感神経の興奮を抑え、副交感神経を優位にするのに役立ちます。
好きな香りや音楽、自分がリラックスできることを自由に試してみましょう。
3. 光と体内時計の調整
朝の光を浴びることは、体内時計をリセットし、夜の睡眠を促進するのに重要です。起床後30分以内に太陽光を浴びる習慣をつけましょう。
逆に、夜はブルーライトを避けることが大切です。スマートフォンやパソコン、テレビなどの画面から発せられるブルーライトは、睡眠ホルモンであるメラトニンの分泌を抑制します。就寝の1〜2時間前からはこれらのデバイスの使用を控えましょう。
4. 睡眠日誌をつける
自分の睡眠パターンを客観的に把握するために、睡眠日誌をつけることをおすすめします。就寝時間、起床時間、睡眠の質、日中の眠気などを記録します。睡眠日誌をつけることで、「思っていたより睡眠時間が取れている」と気づく方も多いです。不眠に対する不安が軽減し、それだけで眠りが改善することもあります。
5. 食事と栄養の見直し
睡眠と食事には密接な関係があります。トリプトファンを含む食品(牛乳、バナナ、鶏肉、卵、大豆製品など)は、セロトニンやメラトニンの合成を助け、睡眠を促進します。
就寝前の重い食事は消化不良を起こし、睡眠を妨げることがあります。夕食は就寝の3時間前までに済ませるのが理想的です。
6. 適切な運動習慣
日中の適度な運動は、夜の睡眠の質を向上させます。特に有酸素運動(ウォーキング、水泳、サイクリングなど)や筋力トレーニングは効果的です。
ただし、就寝直前の激しい運動は交感神経を刺激するため避けましょう。運動は夕方までに終えるのが理想的です。
運動習慣がない方は、まず1日15分程度のウォーキングから始めてみてください。徐々に時間や強度を増やしていくことで、睡眠改善効果が期待できます。
薬物療法と専門医への相談が必要なケース
上記の非薬物療法を試しても改善が見られない場合や、不眠症が重度で日常生活に支障をきたしている場合は、専門医への相談を検討しましょう。
睡眠薬には様々な種類があり、症状や原因に合わせて適切なものを選択する必要があります。
- GABA受容体作動薬:ベンゾジアゼピン系、非ベンゾジアゼピン系があり、入眠を促進します
- メラトニン受容体作動薬:体内時計に作用し、自然な眠りを促します
- オレキシン受容体拮抗薬:覚醒を抑制することで入眠を促進します
睡眠薬は医師の指導のもとで適切に使用すれば、安全で効果的な治療手段となります。当院の睡眠外来では、患者さん一人ひとりの症状や生活背景に合わせた治療プランを提案しています。必要に応じて睡眠ポリグラフ検査なども行い、不眠の原因を詳細に調査します。
関連記事: 睡眠ポリグラフ検査とは?
まとめ:快適な睡眠を取り戻すために
不眠症は現代社会において非常に一般的な問題ですが、適切なアプローチで改善可能です。まずは自分の不眠のタイプと原因を理解し、生活習慣や睡眠環境の見直しから始めましょう。
自宅でできる改善法を試しても効果がない場合は、早めに専門医に相談をしましょう。早期の適切な介入が、慢性化を防ぎ、より早い回復につながります。
睡眠の問題でお悩みの方は、ぜひいいだメンタルペインクリニックの睡眠外来にご相談ください。
著者情報
いいだメンタルペインクリニック
精神科・心療内科
副院長 安田 麻美
- 精神保健指定医
- 日本精神神経学会専門医・指導医
- 日本睡眠学会総合専門医
- 日本老年精神医学会専門医・指導医
- 日本医師会認定産業医
- 日本医師会認定健康スポーツ医
- 北海道女性医師の会 理事