ヘルニアの痛みを緩和する神経ブロック注射の効果とは

2025.10.25ペインクリニック内科・麻酔科

神経ブロック注射とは?ヘルニア治療における基本知識

椎間板ヘルニアの痛みに悩まされている方は少なくありません。特に20〜40代の働き盛りに多いこの疾患は、日常生活に大きな支障をきたすことがあります。

椎間板ヘルニアとは、背骨の間にあるクッションの役割をする椎間板の一部が飛び出して神経を圧迫する状態です。これにより、腰痛や下肢のしびれ、痛みなどの症状が現れます。

そんなヘルニアの痛みを緩和する治療法として注目されているのが「神経ブロック注射」です。この治療法は、痛みの原因となっている神経に直接アプローチする方法として、多くの患者さんに行われています。

神経ブロック注射とは、痛みの原因となっている神経やその周辺に局所麻酔薬や抗炎症薬を注入する治療法です。X線透視下や超音波ガイド下に行うことで、正確に目的の部位に薬剤を届けることができます。

ヘルニアによる痛みは、突出した椎間板が神経を圧迫することで生じます。神経ブロック注射は、その興奮した神経の働きを一時的に遮断し、痛みのサイクルを断ち切る効果があるのです。

神経ブロック注射がヘルニアの痛みを緩和する5つの効果

神経ブロック注射には、ヘルニアの痛みを緩和するいくつかの効果があります。ここでは、特に重要な5つの効果について詳しく解説します。

1. 神経の痛みを直接和らげる即効性

神経ブロック注射の最大の特徴は、痛みを素早く緩和できる即効性にあります。注射により、痛みの信号を脳に伝える神経の働きを一時的に遮断するため、多くの場合、施術直後から効果を実感できます。

椎間板ヘルニアによる強い痛みに苦しんでいる患者さんにとって、この即効性は非常に重要です。痛み止めの内服薬では効果が出るまでに時間がかかることがありますが、神経ブロック注射では施術後すぐに痛みが軽減されることが多いのです。

ただし、効果の現れ方には個人差があります。数時間で効果を感じる方もいれば、数日かけて徐々に痛みが和らいでいく方もいます。

2. 炎症を抑制し痛みの原因に働きかける

神経ブロック注射には、単に痛みを遮断するだけでなく、炎症そのものを抑える効果もあります。ヘルニアによって圧迫された神経の周囲には炎症が生じていることが多く、これが痛みを悪化させる原因となっています。

注射に含まれるステロイド剤などの抗炎症成分が、この炎症を直接抑制することで、痛みの根本原因にアプローチします。炎症が抑えられることで、神経への圧迫感も軽減され、結果的に痛みの悪循環を断ち切ることができるのです。

この抗炎症効果は、単に痛みを一時的に遮断するだけでなく、治癒過程を促進する点でも重要です。炎症が長期間続くと組織の修復が遅れますが、適切なタイミングで炎症を抑えることで、自然治癒力を高める効果も期待できます。

3. 血流改善による自然治癒力の促進

神経ブロック注射には、血流を改善する効果もあります。痛みがあると筋肉が緊張し、血管が収縮して血流が悪くなります。これが長く続くと、組織の回復が遅れ、痛みが慢性化する原因になります。

神経ブロック注射によって痛みが和らぐと、過度な筋緊張が解消され、血流が改善します。血流が良くなると、酸素や栄養素が患部に届きやすくなり、自然治癒力が高まるのです。

特に椎間板ヘルニアでは、椎間板自体の血流が乏しいため、周囲の血流改善が治癒に重要な役割を果たします。神経ブロック注射による血流改善効果は、長期的な回復においても大きな意味を持つのです。

4. 痛みの悪循環を断ち切る心理的効果

慢性的な痛みは、身体だけでなく心理面にも大きな影響を与えます。痛みが続くことで不安や抑うつ状態になり、それがさらに痛みを強く感じさせるという悪循環に陥ることがあります。

神経ブロック注射による痛みの緩和は、この悪循環を断ち切る効果があります。痛みが和らぐことで精神的な負担が軽減され、前向きな気持ちで日常生活や治療に取り組めるようになります。

5. 日常生活の質を向上させる機能回復効果

神経ブロック注射の重要な効果として、日常生活の質(QOL)の向上が挙げられます。ヘルニアの痛みによって制限されていた動作が可能になることで、生活の質が大きく改善します。

痛みが軽減されると、長時間座っていられるようになったり、歩行距離が延びたりと、具体的な機能改善が見られます。これにより仕事や家事など、日常の活動に支障が少なくなり、生活の質が向上します。

また、痛みの緩和により睡眠の質も改善することが多いです。良質な睡眠は心身の回復に不可欠であり、これも治療効果を高める重要な要素となります。

神経ブロック注射の種類と適応疾患

部位主な神経ブロック主な適応疾患
頭部・顔面星状神経節ブロック、三叉神経ブロック、後頭神経ブロック三叉神経痛、片頭痛、群発頭痛、後頭神経痛、顔面神経麻痺、帯状疱疹後神経痛
星状神経節ブロック、肩甲上神経ブロック、肩峰下滑液包ブロック、肩関節ブロック、頚椎椎間関節ブロック肩関節周囲炎(五十肩)、腱板損傷、変形性肩関節症、頚椎症性神経根症
星状神経節ブロック、頚部硬膜外ブロック、頚椎神経根ブロック、腕神経叢ブロック頚椎症、頚椎椎間板ヘルニア、腕神経叢障害、上肢の帯状疱疹後神経痛
体幹部胸部硬膜外ブロック、胸椎神経根ブロック、胸椎椎間関節ブロック、胸部傍脊椎ブロック肋間神経痛、帯状疱疹後神経痛、胸椎椎間関節症、体幹部術後痛
腰下肢腰部硬膜外ブロック、腰部神経根ブロック、腰椎椎間関節ブロック、後肢内側枝ブロック、腰神経叢ブロック、仙腸関節ブロック、梨状筋ブロック、坐骨神経ブロック、股関節ブロック、膝関節ブロック腰椎椎間板ヘルニア、腰部脊柱管狭窄症、坐骨神経痛、変形性股関節症、変形性膝関節症、仙腸関節障害、梨状筋症候群
その他内臓神経ブロック、不対神経節ブロック、腰部交感神経節ブロック、トリガーポイント注射慢性膵炎やがん性疼痛(内臓痛)、骨盤内疼痛症候群、末梢循環障害、筋筋膜性疼痛症候群

神経ブロック注射の効果持続期間と治療計画

神経ブロック注射の効果がどれくらい続くのか、また何回受ければよいのかは、多くの患者さんが気にされる点です。

効果の持続時間と個人差

神経ブロック注射の効果持続時間には大きな個人差があります。数時間で効果が薄れる方もいれば、数週間から数ヶ月効果が持続する方もいます。

一般的に、治療の開始が早く症状が軽い場合は、効果の持続時間が長い傾向にあります。逆に、症状が長期化していたり重症化していたりする場合は、持続時間が短くなることが多いです。

また、注射の回数を重ねるごとに効果の持続時間が伸びていく傾向も見られます。これは、繰り返しの治療により炎症が徐々に改善し、神経の過敏性が低下するためと考えられています。

適切な治療回数の目安

神経ブロック注射は、症状や反応によって適切な回数が異なります。一般的には2〜7回程度行うケースが多いですが、個人差が大きいのが特徴です。

初期の椎間板ヘルニアの場合、まずは5回程度を目安に治療計画を立てることが多いです。それでも5回の注射で効果がない場合は、治療方針の見直しが必要になることがあります。

効果の持続時間が理想的には1週間程度あることが望ましいとされています。効果が数日間しか続かない場合は、別の種類の神経ブロックやパルス高周波法、硬膜外剥離癒着術の治療法を検討する必要があるかもしれません。

神経ブロック注射の副作用とリスク

神経ブロック注射は比較的安全な治療法ですが、他の医療行為と同様に副作用やリスクがあることを理解しておく必要があります。

一般的な副作用

神経ブロック注射後に生じる可能性のある一般的な副作用としては、注射部位の痛みや腫れ、一時的なしびれなどがあります。これらは通常、数時間から数日で自然に改善します。

ステロイド剤を含む注射の場合、顔のほてりや血糖値の一時的な上昇、不眠などが現れることもあります。糖尿病の方は特に注意が必要です。

また、注射後に一時的に痛みが増強することもありますが、これは通常1〜2日で落ち着きます。

稀なリスクと注意点

稀ではありますが、より重大なリスクとして、感染症、神経損傷、アレルギー反応などがあります。これらのリスクを最小限に抑えるため、施術は清潔な環境で、経験豊富な医師によって行われるべきです。

また、血液凝固異常がある方や、抗凝固薬を服用している方は、出血のリスクが高まるため、事前に医師に相談することが重要です。

まとめ:神経ブロック注射でヘルニアの痛みと向き合う

神経ブロック注射は、椎間板ヘルニアによる痛みを緩和するための有効な治療選択肢です。即効性のある痛みの緩和、炎症の抑制、血流改善、心理的効果、そして日常生活の質の向上という5つの効果が期待できます。

ただし、神経ブロック注射はヘルニアを完治させるものではなく、症状を緩和して自然治癒力を高める治療法であることを理解しておく必要があります。

効果の持続時間や必要な回数には個人差があり、症状や反応に応じた治療計画が必要となります。また、稀ではありますが副作用やリスクもあるため、経験豊富な医師のもとで治療を受けることをおすすめします。

椎間板ヘルニアの痛みでお悩みの方は、神経ブロック注射を含めた総合的な治療アプローチについて気になることがある方は、いいだメンタルペインインクリニックにご相談ください。

手術をご検討されている方は下記ページもご覧ください。

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著者情報

いいだメンタルペインクリニック

ペインクリニック内科・麻酔科

理事長 飯田 高史

  • 医学博士
  • 麻酔科標榜医
  • 日本専門医機構認定麻酔科専門医
  • 日本麻酔科学会麻酔科認定医
  • 日本ペインクリニック学会専門医