椎間板ヘルニアの日帰り手術とは?最新の低侵襲治療
2025.10.09ペインクリニック内科・麻酔科

椎間板ヘルニアは、脊椎の椎骨間にあるクッション役の椎間板から髄核が飛び出し、神経を圧迫することで激しい痛みやしびれを引き起こす疾患です。従来は大きく切開する手術が一般的でしたが、医療技術の進歩により、より体に優しい日帰り手術が可能になりました。
日帰り手術は、局所麻酔で行える小さな切開で済む手術方法です。患者さんの体への負担が少なく、術後の回復も早いという大きなメリットがあります。
当院で主に行っている椎間板ヘルニアの日帰り手術は、「ラジオ波椎間板ヘルニア凝縮術(DISC-FX/DART)」という方法です。これは皮膚を切らずに行える治療法で、約2mmの細いニードルを使用し、小鉗子で髄核を一部摘出した後、ラジオ波で蒸散させ、線維輪損傷部を凝縮することでヘルニアの進行を食い止めます。
この治療法は、軽度〜中等度のヘルニア、特に靭帯を破って飛び出していないタイプのヘルニアに効果的です。治療は局所麻酔で行われ、治療時間は20〜30分程度と短時間で済みます。
椎間板ヘルニア 日帰り手術の5つのメリット
椎間板ヘルニアの日帰り手術には、従来の開創手術と比較して多くのメリットがあります。特に患者さんの生活の質を考慮した場合、その利点は明らかです。
ここでは、椎間板ヘルニアの日帰り手術がもたらす5つの主要なメリットについて詳しく解説します。
1. 身体への負担が少ない
日帰り手術の最大のメリットは、身体への負担が少ないことです。従来の手術では5〜10cmほどの切開が必要でしたが、ラジオ波椎間板ヘルニア凝縮術では約2mmの細いニードルを使用するだけです。
切開が小さいため、筋肉や組織へのダメージが最小限に抑えられます。これにより術後の痛みが軽減され、回復も早くなります。また、局所麻酔で行えるため、全身麻酔に伴うリスクも回避できます。
特に高齢の方や基礎疾患をお持ちの方にとって、これは大きなメリットと言えるでしょう。
2. 日帰りで帰宅可能
従来の手術では1〜2週間の入院が必要でしたが、ラジオ波椎間板ヘルニア凝縮術では、治療後1〜2時間ほどベッドで安静にしていただいた後、歩行、帰宅が可能です。
これにより、入院に伴う精神的ストレスや生活リズムの乱れを最小限に抑えることができます。特に仕事や家庭の事情で長期入院が難しい方にとって、大きなメリットとなります。
治療当日は自動車の運転は避けることが推奨されていますので、できるだけ公共交通機関の利用やご家族の送迎をお願いしております。
3. 早期の社会復帰が可能
日帰り手術では、治療後翌日からデスクワークのような軽作業を始めることができます。従来の手術では術後の回復に数週間から数ヶ月かかることもありましたが、低侵襲な日帰り手術では回復期間が大幅に短縮されます。
治療後1〜3週目より徐々に一般のスポーツやフィットネスを始めることも可能です。これにより、長期間の仕事の休みや日常生活の制限を最小限に抑えることができます。
4. 合併症リスクの低減
日帰り手術は低侵襲であるため、従来の手術と比較して合併症のリスクが低いというメリットがあります。切開が小さいことで感染リスクが低減され、出血量も少なくなります。
また、全身麻酔を使用しないため、麻酔に関連する合併症のリスクも回避できます。特に高齢者や基礎疾患をお持ちの方にとって、これは重要なポイントです。
もちろん、比較的低侵襲な治療ですが、神経損傷、術後穿刺部の疼痛、出血、感染、腰痛の一時的な悪化などの合併症の可能性は完全には否定できません。万が一合併症が生じた場合には、提携先の病院で適切な対応を行います。
5. 費用対効果が高い
日帰り手術は入院費用がかからないため、経済的な負担が軽減されます。従来の手術では入院費用を含めると高額になることもありますが、日帰り手術では大幅にコストを抑えることができます。
また、早期に社会復帰できることで、長期間の休職による収入減少も防ぐことができます。これは患者さんの経済的な負担を考えると、非常に重要なポイントです。
医療費だけでなく、仕事を早く再開できることによる間接的な経済効果も考慮すると、日帰り手術の費用対効果は非常に高いと言えるでしょう。
椎間板ヘルニア 日帰り手術の適応となる方
日帰り手術は多くのメリットがありますが、すべての椎間板ヘルニアの患者さんに適しているわけではありません。適応となる条件について説明します。
症状と病態による適応
ラジオ波椎間板ヘルニア凝縮術(DISC-FX/DART)は、主に軽度〜中等度のヘルニアが治療の適応となります。特に靭帯を破って飛び出していないタイプのヘルニアに効果的です。
事前に椎間板造影検査を行うことで、適応かどうかを確認します。MRI検査で椎間板の状態を評価し、治療方針を決定します。
以下のような方が日帰り手術の良い適応となります:
- 保存的治療(薬物療法、神経ブロックなど)で効果が不十分な方
- 長期間の入院が難しい方
- 早期の社会復帰を希望される方
- 全身麻酔のリスクを避けたい方
適応とならない場合
一方で、以下のような場合は日帰り手術の適応とならないことがあります:
- 重度のヘルニアで靭帯を破って大きく飛び出している場合
- 重篤な神経症状(著しい筋力低下や膀胱直腸障害)がある場合
- 脊柱管狭窄症が主な原因である場合
- 出血傾向がある方や抗凝固薬を中止できない方
このような場合は、従来の手術や他の治療法が検討されます。適切な治療法の選択は、患者さん一人ひとりの状態に合わせて慎重に行われるべきです。
ラジオ波椎間板ヘルニア凝縮術(DISC-FX / DART)の治療の流れ
術前の準備
MRI検査や椎間板造影でヘルニアの状態を詳細に評価し、治療の適応を判断します。
抗凝固薬を服用している場合は、担当医と相談のうえ一時的に中止することがあります。


1. 麻酔と穿刺
椎間板造影と同じように椎間板に穿刺し、局所麻酔を行います。
頚椎では前方から、腰椎では後方から、神経を圧迫している部位にアプローチします。
2. ニードル留置
直径約2mmのニードルを椎間板に留置します。

3. 髄核の一部摘出
グラスパー鉗子を用いて、椎間板内部の髄核を一部取り出します。

4. ラジオ波焼灼(アブレーション)
留置針にデバイスを挿入し、ラジオ波で焼灼を行います。
DISC-FXはDARTよりも太いデバイスのため、やや大きいヘルニアに適しています。頚椎ヘルニアの場合にはDARTが選択されます。


DISC-FX:6方向 × 各6秒

DART:3方向 × 各6秒

5. 線維輪の熱凝固(コアグレーション)
椎間板の線維輪に生じた亀裂部に対して、3〜6方向に5秒ずつ熱凝固を行います。
所要時間と注意点
治療時間は約20〜30分です。
局所麻酔で行うため痛みは最小限に抑えられます。
神経に近い部位では、その部位に広がるような痛みを感じることがあります。その際は必ずお知らせください。
術後の経過
治療後は1〜2時間ほどベッドで安静にしていただいた後、歩行、帰宅が可能です。治療当日は自動車の運転は念のため避けていただいた方がいいでしょう。
治療効果が十分発揮されるまで目安として4〜8週かかりますが、治療直後から手足の症状が軽くなったという声をよく聞きます。術後の痛みは個人差がありますが、徐々に軽減していきます。必要に応じて痛み止めの薬を処方します。
治療後翌日からデスクワークのような軽作業を始めることができ、数日で通常の活動に戻ることができます。
まとめ:椎間板ヘルニア 日帰り手術の可能性
椎間板ヘルニアの日帰り手術、特にラジオ波椎間板ヘルニア凝縮術(DISC-FX/DART)は、従来の手術と比較して多くのメリットがあります。身体への負担が少なく、日帰りで帰宅可能で、早期の社会復帰が可能です。また、合併症リスクが低く、費用対効果も高いという特徴があります。
ただし、すべての椎間板ヘルニアの患者さんに適しているわけではなく、症状や病態によって適応が決まります。適切な治療法の選択は、専門医との十分な相談の上で行うことが重要です。
椎間板ヘルニアでお悩みの方は、まずは専門医に相談し、ご自身の状態に最も適した治療法を見つけることをお勧めします。日帰り手術が適応となる方にとって、それは早期回復への大きな一歩となるでしょう。
著者情報
いいだメンタルペインクリニック
ペインクリニック内科・麻酔科
理事長 飯田 高史
- 医学博士
- 麻酔科標榜医
- 日本専門医機構認定麻酔科専門医
- 日本麻酔科学会麻酔科認定医
- 日本ペインクリニック学会専門医